羽生善治「決断力」

決断力 (角川oneテーマ21)

p32
つまり、経験にはいい結果、悪い結果がある。それをつむことによっていろいろな方法論というか、選択肢もふえてきた。しかし一方では経験を積んで選択肢が増えているぶんだけ、怖いとか、不安だとか、そういう気持ちも増してきている。考える材料が増えれば増えるほど、これと似たようなことを前にやって失敗してしまったというマイナス面も大きく膨らんで自分の思考を縛ることになる。
そういうマイナス面に打ち勝てる理性、自分自身をコントロールする力を同時に成長させていかないと、経験を生かしきるのは難しくなってしまう。それは将棋に限らず、ビジネスの世界をはじめ、共通する課題であろう。


p56
しかし、判断のための情報が増えるほど正しい判断ができるようになるかというと、必ずしもそうはいかない。私はそこに将棋の面白さのひとつがあるとおもっているが、経験によって考える材料がふえると、逆にまよったり、しんぱいしたり、怖いという気持ちが働き、思考の迷路にはまってしまう。


P69
現状に満足してしまうと、進歩はない。
物事を進めようとするときに、まだその時期じゃない、環境が整っていないとリスクばかりを強調する人がいるが、環境が整っていないことは、逆説的にいえば、非常にいい環境だといえる。リスクを強調すると新しいことに挑戦することに尻込みしてしまう。
リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやりがいが大きい。そちらに目を向ければ、挑戦してみようという気持ちもおきてくるのではないだろうか


P71
決断とリスクはワンセットである。日本の社会は同質社会ということもあって、このバランスが悪いと思う。リスクを負わない人がいる一方で、リスクだけ負わされている人がいる。決断を下さないほうが減点がないから決断を下せる人が生まれてこなくなるのではないか。目標があってこその決断である。自己責任という言葉を最近よく聞くが、リスクを背負って決断を下す人が育たないと、社会も企業も現状の打破にはつながらないであろう。

→私は、積極的にリスクをおうことは未来のリスクを最小限にすると、いつも自分に言い聞かせている。

しかしその行為が長期的なモチベーションに繋がるかは、また別問題である。